ローレンツ『ソロモンの指環』

こんにちはカルガモのお母さんの後ろをよちよちとついて歩くかわいいヒナたちの様子は、ビル街から皇居の堀に向かう映像が報道されていて有名ですからご存じの方も多いでしょう。生まれたばかりのヒナは、最初に目にした間近に動くものを「親」だと認識します。さっきまで卵を温めていたお母さんを親と認識するのですが、これを「刷り込み(インプリンティング)」といいます。 刷り込みを理論的に初めて明らかにしたのが、この本の著者、ローレンツです。(2000.8.22初稿)


あなただって、動物と話せる!

コンラート・ローレンツ
『ソロモンの指環 動物行動学入門』
早川書房
単行本1987年/文庫本1998年
※頁表記は文庫本による

孵卵器(ふらんき)からかえったマガモのヒナたちが最初に目にしたのはローレンツ博士。さて、ローレンツは代理ママを務めるのですが……

立ち姿勢ではヒナたちは母親を見失い、見捨てられたときの鋭い声をたててしまう。だから低くしゃがんだままで歩かねばならない。

黙っていてもいけない。「クヴェーゲッゲッゲッ……」と鳴き真似をする。「半分間も中断しようものなら」(215頁) ヒナたちは「お母さん、どこ?」ってな具合。「こんなヒナたちを二時間も散歩させてやるつらさを想像してほしい」(216頁)──これが、動物行動学。

水槽で魚を飼うことをアクアリウムと言いますが、これに興味のある人は全12章のうち第2章から第4章までを、ペットを飼いたいと思っている人は「第8章 なにを飼ったらいいか!」を読めばいいでしょう。このように、この本は動物の行動にかかわるお話を集めたものです。ローレンツは1903年生まれ、オーストリアの動物学者。たくさんの動物と寝起きをともにして動物の行動を研究したようです。たとえばマガモと上手につきあうには、鳴き真似がうまくなるように練習すればいいのです。

ある日、観光客で混み合う駅前にローレンツはいた。ふと空高く飛んでいる一羽の鳥に気がつき、やがてそれが飼っているオウムのコカとわかった。どこか遠くへ行ってしまうかもしれない。鳥を呼び寄せなくては……

ありったけの声をふりしぼって「オエー、オエー」と叫べばいいのだが、ブタが殺されるときのブタがふりしぼる最大の声を録音したものをさらに拡声器で四倍に増幅した声をだせば……

ローレンツは決心してわめいた!

群衆は立ちすくみ、コカは急降下し、高くさしのべた腕にとまった。

どこそこの屋根の上におたくのワシがとまっていますよ、と電話がかかってきた。立派な翼を持っていながら、飛ぶのが好きじゃない。だから迎えに行く。自転車をこわがるのでしかたなく歩いて……

えっ、 近くじゃないですよ。数キロメートルも先ですよ。

腹をかかえるほどおかしな話がまだまだあります。ユーモアたっぷりの実話ばかりです。旧約聖書のソロモン王は魔法の指環をつけると動物と話ができるというが、私(ローレンツ)は「指環などなくても話ができる」──これが、この本のタイトルの由来です。

【注釈】以下、258頁冒頭部分より引用します

旧約聖書によると、諸王の一人ソロモンはたいへん博学で、けものたち、鳥たち、魚たちについても語ったという。聖書のこの記述のちょっとした読みちがいが、ソロモンは魔法の指環をはめて、けものども、鳥ども、魚どもと語った、という有名な言い伝えを生むことになった。