Book Boat 544号 2008.10.3

Book Boat 2008/10/3(金) No.544
本と情報の海を小舟で航海

:Log,Letter,Memo 四方見聞録

:ヒントブックス(明石市)発

 ヒントブックスの会員では最高齢92歳のNさん宅に配達に行きました。介護付き有料老人ホームの7階の一室、お一人で暮らしています。夏に1か月ほど入院されたときも少し心配だったのですが、高齢だけにちょっと気になるのです。Faxや電話で在宅を確認してから配達に行くのですが、必ず居るだろうと思う夕方、連絡がとれませんでした。
 自転車で30分かけて行きました。部屋は閉まっていました。さて? どうしたものか? 事務所に預けようと決め、7階まで上がってきたエレベーターに乗ろうとしたら一人の女性が降りて来ました。元気な人なのでヘルパーさんかなと思いながら様子を見ると、Nさんの部屋に行ったのです。これ幸い、声をかけると娘さんでした。
 「父が、いい本屋さんを見つけたと喜んでいました」
 「頭がふらふらするので、自分から進んで介護棟へ移ったのです」
 「本が好きだから、きっとまた注文すると思いますよ」
 「そうそう、孫にもおもちゃをプレゼントしてくれましたよ。ここで買ったのですね」
 私が「むずかしいしっかりした本をよく読まれますね」と言うと、
 「前は私が買いに行ってたのですが、どこに売っているのか、困っていました。とても助かります」
 感じの良い娘さんで、たぶん60歳前後だろうと思うのですが、若く見えたその女性は、気持ちよくたくさん話してくれました。こういう偶然ってあるんだなあと驚いた一コマでした。

(Yuki)

:good sailing & good reading 晴航雨読

野鳥をさわる、つかむ。野鳥にふれる。

  • 『鳥の形態図鑑』
    • 赤勘兵衛(せき・かんべえ著)
    • 偕成社 6090円(税込み)
    • 2008年7月発行
    • 179p 大型変型(縦283×242)厚22mm 上製 1140g
    • ISBN 978-4-03-971150-2

 この本を初めて開いたとき、声に出すかどうかは別にして「ウオッ」という衝動が走り、目はそこにある”絵”に釘付けになるだろう、多くの人は、たぶん。

 見開かれた鳥の目に光があたり、生きた鳥が目前にいる感じがする。かと思えば、目は閉じられ、首がうなだれているものもある。これは死んでいるのだ。

 鉛筆によるデッサンで、鳥は描かれている。羽一枚一枚を。目の輝きも鋭い爪も、個性的なくちばしも。それに彩色がほどこされる。
 カルガモの羽には、光の反射角度によって、水色・紺色・紫色と変化するところがあるが、その羽色(うしょく)を見事に描き出している。

 図鑑といえば鳥の識別を目的と思い込むが、この本に掲載されている鳥は60種に満たない。国内で見られる鳥は300種を超えるから、そういう識別図鑑としては役立たない。これは「形態図」鑑だ。

 見開きで、ハヤブサの頭部だけが、8つ、描かれている。目の虹彩、目の周囲の黄色い部分、鼻の位置、獲物を逃がさない鋭いくちばし、それらはすべて獲物を捕獲するために備わっているとわかる。

 じつは、”傷病鳥図鑑”と言ってもいいかなと思うが、野生動物病院で出会った鳥たちがこの本でエントリーされている。

 キズや病気が治って再び野に放たれるまでのあいだに、そのチャンスを生かして、鳥たちの特徴を十二分に著者が引き出したもの。

 鳥を観察し、識別するとき、野外ではこんなに間近に見ることは滅多にない。それでも遠いながらも、鳥の姿全体を漫然と見るのではなく、くちばしの色は?形は? 足の色は、羽の特徴は、など、それらをすばやく見極めて識別する。

 本書では、岩井修一による解説があり、赤勘兵衛のデッサンと解説を読み重ねると、鳥のからだの精巧さ、機能美、そして自然の不思議をまざまざと感じ取れる。

 赤勘兵衛は、野鳥に関心をもった動機を少年時代に回想して記述している。

 わたしが初めて鳥を描こうと思ったのは、半世紀も前の冬の日のことでした。都会育ちのわたしが、その日、大きな欅(けやき)の下に、たった今魂がぬけ出したかのような、ヒヨドリの死体をみつけたのです。その死体は、安らかに寝ているようでした。幼いわたしには嫌悪感はなく、大切にシャツに包んで家にもち帰り、卓上におき、まるで生きているような姿に感動しながら描きはじめました。 (「はじめに」より)

 この図集は「ヒヨドリとの出会いを再現」するねらいがある。鳥の種類を数多くおぼえる──は本書の目的ではなく、「解説」という助けを借りながら、鳥の不思議、生きものの驚異を感じ取ることにある。

 専門用語や漢字には振り仮名がつけられている。生物学の本というような堅苦しさはない。絵をながめながら、ページを開いたところ、どこからでも読める。それはちょうど、赤勘兵衛の少年時代、ヒヨドリとの出会いと似ているのかもしれない。

 ということは、自然の好きな子どもにも向いている本──ということでもある。細密画を学びたい人には良いテキストになるだろう。本の価格は少し高めだが、内容は十分に応えてくれる。

:次の配信は、〔2008年〕10月17日(金)を予定しています。(※現在、休止中)

東経135度の子午線が通る明石から
発行: ヒントブックス
発行人: 山田利行
発行日:金曜日ごとに月3回程度

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