ある多重人格の記録

  • 『24人のビリー・ミリガン』
    • ハヤカワ文庫 上下2巻 1999年
    • 原書名: THE MINDS OF BILLY MILLIGAN (1981,1982)
    • 単行本の副題「ある多重人格の記録」
    • 単行本は1992年
  • ダニエル・キイス(Daniel Keyes)著 堀内静子/訳

ビリーは教師に出会い、24人の人格たちはやがて統合へ

 これは実話である。
 1977年10月27日、レイプ犯の容疑で警察に逮捕されたとき、ビリーは「ダニー」を名乗った。ダニーは、「14歳。怯えている。人々、とくに男性を怖がる。自分の墓を掘らされ、生き埋めにされた経験がある。そのため、静物画だけを描く。肩までの金髪、青い目。小柄で痩せている」。ダニー(つまり、ビリー)は父親に埋められるという虐待を受けていた。
 拘置所に初めて連れられてきたとき、黒人と一緒に手錠をはめられていたが、ビリーは自分でそれをはずした。「おれは関係ないぜ。あいつは手錠をあっさりはずしちまったんだ」(上巻57頁) その手錠をはずしたのは、「トミー」。トミーは「16歳。縄抜けの名人。アレンと間違えられることが多い。だいたいにおいて喧嘩腰で、反社会的。サキソフォンを吹き、電気の専門家で、風景画を描く。髪はマディ・ブロンド。目はアンバー・ブラウン」。

 心理学者ドロシーが初めてビリーを面接したとき、ビリーの「目に子供っぽい恐怖が浮かんでいた」。(上巻79頁) 
──「ぼくはビリーじゃない」彼女は眉をひそめた。「ちょっと待って。ビリーじゃないんなら、あなたは誰?」「ぼくはデイヴィッドだ」。(上巻81頁)
 デイヴィッドは「8歳。苦痛の管理者。感情移入し、ほかの人格たちの苦しみや苦痛を吸収する。きわめて過敏で知覚力が鋭いが、集中期間が短い。たいていの場合、混乱している。暗赤色がかった茶色の髪、青い目。身体は小さい」。

 さて、ビリーもダニーもトミーもデイヴィッドも、すべて同じ肉体にやどる。同一人物である。イギリスのアクセントで話す「アーサー」はアラビア語も流暢に読み書きする。ビリーの口からユーゴスラヴィア訛りの声が聞こえてきたら「レイゲン」だ。
──(エイプリルは)レイゲンの耳にささやいた。「チャーマーを殺すのよ。銃を持って、彼を撃つのよ」「おれは殺し屋じゃない」「殺人じゃないわ。彼がしたことにたいする正義の裁きよ」「おれは法律じゃない。正義の裁きは法廷できまる。おれが力を使うのは、子供たちと女を守るときだけだ」(下巻54頁)。「エイプリル」は女性。アーサーもレイゲンもそしてエイプリルも、ビリーなのだ。

 多重人格とは何か?
 ビリーを密着取材した著者キイスによって、驚くほどに再現されている。アメリカの司法制度と精神科医たちのかけひきも詳しい。
 1978年12月以降、ビリーはオハイオ州のアセンズ精神衛生センターで暮らすことになり、これらの人格たちが心理学者や精神科医の治療によって統合されていく過程は圧巻。しかし、1979年10月、ビリーは手錠をかけられ、ライマ精神異常犯罪者病院に移送される。敵意を見せる精神科医ミルキーにビリーは過酷な仕打ちを受ける。1982年4月、再びアセンズに戻ったが、心の傷は大きく、ビリーと精神科医はその修復に取り組まねばならなくなった。

山田利行 2001.6.13記す
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