《おはなしのピースウォーク》全6巻

「現代」にふさわしい戦争児童文学・短編集

  • 日本児童文学者協会創立60周年記念出版
  • 編者 / 日本児童文学者協会
  • 発行 / 新日本出版社 2006-2008
  • 発刊の意図(本書あとがきより)
    • 2003年の秋、日本児童文学者協会は、日本政府が自衛隊のイラク派遣を決めた直後に、「新しい戦争児童文学」委員会を発足させました。これまでのように反対声明を出すだけでなく、具体的な作品で私たちの気持ちを表そうという試みが、こうしてはじまりました。委員会はその後、作品の募集や合評研究会などを積み重ねてきました。このシリーズはそうした活動から生まれたアンソロジーです。
    • 「新しい戦争児童文学」委員会のメンバー
      • 奥山恵 / 川北亮司 / きどのりこ / 木村研 / 西山利佳 / はたちよしこ / 古田足日 / 最上一平
  • 小学5,6年生で読めます。

 巻頭言(はじめの発言)で古田足日は、少年時代に「戦争とはどういうものか」を考えさせてくれる記事や物語はまったくなかった、と記している。過去の過ちを繰り返さないため文学者として の責任を果たすという目的もあったのでしょう。

  1. まぼろしの犬
  2. 扉を開けて
  3. 空はつながっている
  4. 傘の舞った日
  5. 地球の心はなに思う
  6. こすもすベーカリー物語

「新しい憲法のはなし」(第2巻所収)を、ズッコケ三人組シリーズで知られる那須正幹が執筆。これは近未来小説で、今の平和憲法が「改正」されて自衛隊を軍隊として認めたら「こうなる」というシミュレーション。

「おばけイチゴを食べた日から」(第1巻所収)では、主人公・6年生の未来(みく)のお父さんが自衛官で、イラクに派遣されることによる物語。未来は新聞部4人の一人。戦争に無関心だった3人は、……。卒業式、6年間の思い出や決意を表現するとき、彼ら4人が手に持っていたものは、……。

「まぼろしの犬」(第1巻所収)は、戦場で銃に追われていたのは人間だけでなく「犬」もいたという物語です。その犬の目からみた戦場、犬の語りでストーリが展開してゆきます。イラク戦争に詳しければ、アメリカ軍のファルージャ総攻撃のことではないか?と想像して恐ろしくなります。

「死んでもいわない」(第2巻所収)は、アメリカのテロ戦争宣言によって攻撃されたアフガニスタンが舞台の物語です。アフガニスタンに暮らす9歳の少女ジャンビーヤは、アフガニスタンで暮らすほかの子どもたちと同様、水くみや家畜の世話で家の仕事を手伝っていました。そんなある日、水くみに行って、アメリカ軍が落としていった「食料」を拾い、家に持ち帰ります。その食料は「黄色い」袋に入っていました。食料を食べ尽くし、また「落ちてないかな?」と探しに出かけ、こんどは「黄色い缶」に触れてしまうのです。

「マルコのサッカーボール」(第2巻所収)の舞台は、バルカン半島のコソボ自治州です。少年マルコはセルビア人。その親友ベキムはアルバニア人。この人種の違いが彼らを翻弄させます。彼らの住むユーゴスラビアはサッカーがとても盛んで、この二人も、「大きくなったらプロのサッカー選手になろうな!」と、誓いあうのです。理解しにくいユーゴスラビアの内戦が、とってもわかりやすい。

おはなしのピースウォーク〈3〉『空はつながっている』

手と足をもいだ丸太にしてかへし

「枯れ木林の子どもたち」は1985年生まれの大浦絵里による作品。《おはなしのピースウォーク》シリーズは新人が多く登場する結果になっている。ベトナム戦争でアメリカ軍は「ある日恐ろしい毒を空から撒き散らした」(13頁)。それが猛毒のダイオキシンを含む枯葉剤だったということはよく知られている事実だ。しかし私たちが知っている「事実」とは、どれほど具体的なのでしょう。「枯れ木林の子どもたち」は、油状の枯葉剤を全身に浴びせられたその地上からのメッセージだ。

「空はつながっている」は、東京の渋谷で、中学生・知花(ちか)ちゃんが反戦デモに加わった話。──私は「戦争反対」なんて口にするのが恥ずかしいような気がして、時々辺りを見回しながらだまって歩きつづける。(p50) そんな知花ちゃんは、直(ただし)おじさんが撮ったイラクの少女の姿が頭から離れない。直おじさんはフリーカメラマン。アメリカのイラク攻撃をイラク側から撮影するといって、イラクに行ったままだ。安否を知らせてきたメールが途絶えて不安がよぎる。イラクの少女ハディヤは白血病だった。アメリカが使用した劣化ウラン弾で被曝したのだった。──桜の咲く季節だというのに、雨が降り、寒い。知花ちゃんは、直おじさんの恋人と祖母と一緒に歩いた。祖母がつぶやいた。「この空はつながっているのね」(p56) 生まれたときから戦争しかしらないハディヤ。戦争のないことが当たり前の日本で知花ちゃんは、空を見上げて戦地イラクに思いを馳せる。

 鶴彬(つるあきら)という川柳作家がいた。1909年に生まれ、38年に死去。29歳。──それから八か月のあいだ、鶴彬は、拷問に耐えながら特高とたたかいつづけた。だが夏のある日、赤痢を発病して豊多摩病院へうつされた。(p103) 「五つの川柳物語」(吉橋通夫・作)は鶴彬の遺した川柳をもとにしいる。鶴彬の川柳からは、おかしみも笑いもない。鶴彬の五七五は、戦時下にあって戦争の理不尽と悲しみを端的に表している。

ふるさとは病ひと一しょに帰るとこ

 紡績工場で徹夜で立ちつづけ、綿くずを吸い、咳と熱と体のだるさに耐え、倒れるまで故郷に帰ることをゆるされなかった。

稼ぎ手を殺してならぬ千人針

 母は息子に弾丸(たま)が当たらぬようにと願って、千人針を集め、息子にもたせて出兵させた。「母さん、千人針なんて迷信やで」という息子に、母は「イワシの頭も信心からや」と言う。 それから……。息子は生きてもどってきた。病院で息子と再会した母が目にしたのは……。

手と足をもいだ丸太にしてかへし

 《おはなしのピースウォーク》編集代表の古田足日は1927年生まれ。日本が中国への侵略を本格化させていった1937年、古田は小学4年生だった。占領地域が中国の大地に広がっていくことを喜んだ少年時代をふりかえり、次のように記している。──子どものとき、ぼくはなぜ家を焼かれ、こわされた中国の子どもたちのことを想像できなかったのか。当時の少年雑誌や本に、そういう記事、物語がなかったことがその原因の一つだと思う。(p6) この反省と教訓によって《おはなしのピースウォーク》が編まれた。

 改めて、イマジネーション=想像することの意味を考えさせられる。作家たちのペンは、怒りや悲しみを抑制している。考えるのはあなた=読者ですよ、と問いかけられている。戦争は絶対に起こしてはならない。戦争抑止は、武力ではなく、こうした文学が伝えようとするイマジネーションが担(にな)っている。

山田利行 2019.7.11記す
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