〈民話〉座頭の木

転記にあたり ── 用字や句読点を間違わないようにしました。読みにくいところ、意味がとりにくいところは、そこにこだわらないで読み飛ばしてください。

出典:松谷みよ子『読んであげたいおはなし 松谷みよ子の民話 下』2002年 筑摩書房

── お話し ── はじまりぃ はじまりぃ

 むかし、あったそうな。
 あるところに川があって、渡し守(わたしもり)が住んでいた。その年は雨がひどく降ったもので、川があふれ、村も水びたしになって、えらい難儀をした。ようやく水も引いたので、渡し守は流れてくる木でも拾おうと、船を出したと。
 すると、むこうのほうから、うす黒いようなものが流れてくる。
「おや、いい木が流れてくるでねえか」
と、待っていると、なんと、それは木ではなくて死んだ人であった。
「なんとかわいそうに」
と、引きあげてみると、座頭坊(ざとうぼう)さまであった。目の不自由な人が坊さま姿になって、琵琶をひいたり、うたったりして旅をする、そういう坊さまを、座頭坊さまというのだ。
「ああ、目が見えんために水に流されたか。なんたらむごいことだべ」
 渡し守は、そうそうに船をこいで岸へつけると、死んだ座頭坊さまを背中におぶって、川のそばにある畑へ埋めたと。
 すると、二、三日もしたころ、そこから芽が出て、どんどと伸びてきた。となり近所にきいてみたが、だれひとり、なんの木といいあてるものがない。
 その間に木は伸びるも伸びて、見あげるような大木になってしまった。子守っ子たちはおもしろがって、

  座頭坊さま埋めたれば
  でかい木になった
  ねんねん ねんねん
  ねんねこよ

などとうたって歩いたもので、村じゅうの評判になってしまい、見にくるものもたくさんおったそうな。
 そのうちに、その木につぶつぶと、つぼみがふくらんできた。つぼみは日増しに大きくなって、やがて、白だの、うす紅(くれない)だの、紫だの黄色だの、なんと、おとなが両手を広げたほどのでかい花がひらいたと。おまけにそのにおいのいいこと、村じゅうが、うっとりするようないいにおいの中に、こっぽり包まれたようであった。村の衆が集まって、ため息つきつき、首も痛くなるほどあおむいてながめていると、ひとりの守っ子が、さけんだ。
「あ、花ん中に座頭坊さまがすわってござる」
 たまげてよくよく見ると、ほんとうに花の真ん中にひとりずつ、小さな座頭坊さまが、ちゃんとすわってござった。太鼓たたくふうしているもの、笛吹いている姿のもの、三味線(しゃみせん)抱えているもの、鉦(かね)っこ持っているもの、口あいて、うたうようすをしているもの、みんな、なにかしら芸をしているふうをして、ちゃんとすわってござる。
 さあ、このうわさがぱっと広がったから、めずらしくて、めずらしくて、たいしたもんだ。話の種じゃ、見ておかねばと、五十里、六十里のむこうから、見物人が集まったそうな。それがどうだ。いきも帰りも、渡し守の船に乗ったから、渡し守はいそがしくて、いそがしくて、たあんと銭こ、もうかったと。
 やがて、風が吹いて、その花が、川ん中へ散り始めたそうな。すると、花の中にすわってござった座頭坊さまが、太鼓たたく、笛吹く、うたう、鉦鳴らす、いっせいにお囃子(はやし)を始めたと。

  どんとゃん どんちゃん
  ちちん ちん どてちんどん
  ぴいひゃらぴい ととんとん

 にぎやかに、お囃子をしながら流れていくのに、なかには、芸のない座頭坊さまもおって、そういう花は、ずぶずぶ、ずぶずぶ、沈んでいったと。
 これがまた評判になったから、どっと見物人が押しかけてきた。村の衆もだんご売ったり、むしろ貸したり、銭こもうかってほくほくしたと。
 やがて花も散って、風も冷たくなってきた。子どもたちは、木の下に集まっては、遊んでいたが、ある日のこと、なんの気もなく木を見あげて、騒ぎになった。なんと、花の散ったあとに、子どものよろこぶものばかりで、ずっぱり実になってさがっていたと。赤い着物だの、てんまりだの、こまだの、竹馬もあれば、凧(たこ)もある。下駄もあれば、お手玉もあったと。
「おら、赤い下駄、ほしいなあ」
「おら、こま、こまに決めた」
「おら、饅頭」
 村じゅうの子どもが木の下に集まって、首が痛くなるほど、いつまでも見あげていたが、とうとう、ひとりの子がどなった。

  座頭の木どの
  座頭の木どの
  おら 饅頭が
  食いてえなあ

 するとどうだ。風っこ、どうっと吹いて、なんとその子のところへ、饅頭が、ぽたぽた落ちてきたと。
 さあ、子どもたちの騒ぎったらない。もううれしくて、てんでんに、

  座頭の木どの
  座頭の木どの
  おらに赤い下駄
  くれてけろ

とさけんだり、とびはねながら、

  おらにはこま
  こま こま
  こまに 決いめた

などとさけんだと。そのたんびに、風っこ、どうっと吹いて、赤い下駄だの、こまだの、てんまりだの、その子の手元へ落ちてきたと。雪っこもちらちら降りだして、じき、正月だった。

  • 解説/注釈
    1. 蒐集した民話を現代に生かす意図で編まれている。
    2. 座頭坊を題材にした民話はほかに多くある。
    3. おとなが気づかずとも子どもが気づき、欲しがるものを惜しみなく与えようとする子どもへの見守り・愛がある。

山田利行 2019.8.8記す
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