「記憶」で、保育は、できない。

 保育士養成校で教えていたときのこと。学生はまだ現場を経験していない。それぞれが子どもを想像している。「君たちは、自分の記憶をなんとか思い起こそうとしているんじゃないか?」 その記憶は4歳までがせいぜいだろう。3歳の頃を覚えているかもしれない。記憶がどれほど確かか疑問だが、記憶で保育ができるのはかろうじて5歳ぐらいからだ。ましてや、ゼロ歳や1歳の保育はできない。学ぶことが大切になる。その発達の先に5歳がある。「記憶」で、保育は、できない。

山田利行 2019.6.12記す

❖中学3年生、9年前の記憶

 2017年3月10日、中学生7人が神戸の某保育園を訪ねてきていた。卒業式があったその帰りだという。ちょうど9年前に卒園している。仲がいいなあと思いながら、即興で質問してみた。保育園時代の記憶をどれくらい覚えているか、と。── 節分の鬼がこわかったと口々に言う。
 「先生が鬼になっているとわかっていても、こわかったあ」と。「節分の鬼は毎回おぼえている」という女生徒がいた──ということは、4歳児クラスの2月を想起できるということだ。他の6人は首をかしげているので、5歳児までの記憶ということになるだろうか。鬼は2月なので実際の年齢では、4歳児の場合は5歳、5歳児は6歳だろう。

❖「記憶」を学ぶ

 日本認知心理学会は「現代の認知心理学」(全7巻)というシリーズを2010~11年に、認知科学の水準を著し教科書として発行している。その第2巻「記憶と日常」で、ようやく私は「記憶」について学ぶ機会を得た。
 「記憶の過程」は次の4つの段階で表される。

記銘 → 保持 → 想起(記憶)→ 忘却

 日常会話で「記憶」というときは「想起」をさす。あかちゃんや幼いとき、その記憶がないということは、①記銘(保持)されていないのか、②記銘(保持)されているが想起できないのか、を考えてみる。
 ゼロ歳児を観察して、そして、「担当制」が有効という前提に立てば、現場感覚として「記銘」されていると考えるのが自然だろう。したがって、①は否定される。研究者間では①②の結論は出ていなくて、そして大勢は、②であるらしい。

(参考: 日本心理学会 | 子どものときのことを覚えていないのはなぜ?

❖記憶の必要で、脳は「リハーサル」をしている。

 「記銘」とは極めて短時間、数秒間の反応で、周囲の刺激を認識した”瞬間”のこと。その次の段階「保持」によって、脳に格納される。
 想起(記憶)される仕組みは研究が進みつつもわからないことは多い。わたしたちは忘れないようにするために、必要なときに思い出せるようにさまざまな工夫をする。その工夫を認知学的には「リハーサル」という。リハーサルにも種類はあるが、過去に学習した(保持されている)ことに関連づけていること(精緻化リハーサル)が多いようだ。0歳にとっては、あらゆる感覚刺激が原体験であり関連づける対象がない。関連づけるものがなくても、身につく。「身につく」は「受け入れる」が適切かもしれない。0歳だけでなく、1歳、2歳までは似たようなものだと思う。したがって、0,1,2歳とそれ以降とでは、記憶(脳の機能)の観点からも何かが違う、と私は考える。

❖「リハーサル」の対象となるモノサシが必要

 では、リハーサルが有効に機能するようになるのはいつ頃からだろう。それが先にあげたこわかった鬼の思い出とつながる。
 獅子舞であかちゃんが泣く。秋田の郷土芸能なまはげであかちゃんが泣く。そのあかちゃんは母や祖母らに抱かれている。つまり、保護されている(愛を相互に確認できる)関係で、泣く。その記憶はなくても、恐怖に対するモノサシが育つ。愛に支えられているから有効なモノサシができる。そのモノサシがリハーサルの対象となり、4歳または5歳当時に「記銘→保持」され、9年後に想起される。思い出としては、「こわかった」ことだが、じつは、「こわいを感じられる愛情」のもとに育ったという証でもある。このモノサシは、私が創案した「体験三重視 & ハートスケール」と合致する。

❖「受け入れる」が最初

 現時点での到達した私の理解は、おおむね5歳(の誕生日)までにリハーサルの対象となるモノサシを得る。モノサシは豊かであってほしい。先にあげた脈絡でいうところの「受け入れる」という機能が乳幼児の特性であるならば、ありとあらゆる体験をさせる、より適切な環境に置く、ということだろう。
 出生したそのとき、脳神経(ニューロン)は最大に配置されているという。アポトーシスという原理で、使われなかったニューロンは衰退していく(脳の活性化とは別の機序)。乳幼児の生育環境をどう考えればよいのか、課題は多い。



山田利行 2017.8.18記す
▶子育ての確からしさを考える

  • 改訂履歴
    • 2019.6.16 「記憶の分類」を追加
    • 2017.8.18 初稿

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