はさみの指穴には、どの指を入れるのか?

こんにちは子ども用に限らないが、はさみの使われている場面で、「切れない」はさみがどれほど多いことだろう。幼い子どもたちは、折り紙程度ならそれなりに切れるようだが、紙が少し厚くなったり、長く切ったり、まるく切るとなれば、子ども自身が満足しているように思えない。


保育関係者にこのことを話題にしたとき、(幼児が使うと)「はさみがねる」と言った。ねるとは、はさみが横になってしまう、ということだ。わたしはかねてから、人さし指は指穴に入れるのではなく外に出しておくほうが使いやすいのではないかと考えている。

「はさみ」が主役になっている本で、指穴にどの指が入れられているか調べてみた。本の探し方としては、書店で入手できる国内流通リストと明石市立図書館所蔵より「はさみ」をキーワードにするなどした。実際のところ網羅的に調べるのは困難なので、気になった本を開いてみた、というのが実際。これによって、以下5点の本を取り上げる。

  1. 小岩俊 1991年『はさみのつかいかた』ポプラ社(子ども向け)
  2. せなけいこ 2004年『ぼくのはさみ』金の星社(絵本/創作もの)
  3. 峰尾幸仁 2002年『道具のつかい方事典』岩崎書店(子ども向け)
  4. 佐野裕二 1987年『鋏読本』新門出版社(一般向けだが内容は専門書クラス)
  5. 谷田貝公昭 2016年『不器用っ子が増えている』(一般向け)

はさみ本、小岩俊

上の『はさみのつかいかた』。図(写真)で「人さしゆびや、中ゆびをいれるところ」と明確に指示している。こんなにはっきり言い切ってよいものだろうか?と疑問あり。

はさみ本、せなけいこ

『いやだいやだの絵本』などでよく知られる<せなけいこ>の絵本『ぼくのはさみ』。両手にはさみを持っているのは、動物のカニをまねしているところ。さて、どの指を指穴に入れているのかと見ると、私の関心事である人さし指は指穴に入れられていて外に出ていない。

はさみ本、峰尾幸仁

道具を手にすると、ついその道具を動かそうとする。そういう意味で、上の左図、「紙をまわしながら切る」は正しい。しかしながら、人さし指は指穴に入っているように見える。右図は布を切っているのと形からも「裁ちばさみ」でしょう。裁ちばさみは4本とも入れるらしいのでこれはこれでよいのでしょう。だが、左図と右図で、指の使い方の違いには触れられていない。

はさみ本、佐野裕二

  • ① ろうそく芯切りばさみ(p79)
  • ② 「林家正楽師匠の鋏談義」(p90)より
  • ③ 師匠②が鋏を手にしているところ(p91)
  • ④ 剪定ばさみ(p93)
  • ⑤ 針金切り小ばさみ(p93)
  • ⑥ 新種のはさみ(p121)
  • ⑦ 羅紗切りばさみ(p128)
  • ⑧ 羅紗切りばさみ(p101)
  • ⑨ 羅紗切りばさみ(p124)
  • ⑩ 羅紗切りばさみ(p128)

ようやくこの本で、人さし指が、指穴ではなく刃に添えてバランスをとる働きをしているらしい写真に出会った。「裁ちばさみ」は、どうやら4本とも指穴に入れるのが正しいようだ。(羅紗切りばさみの製造工程で)「大きい方のアシ部分に4本の指を入れる環をつくり、小さい方に親指を入れる環をつくって仕上げる工法を総火造りという」(p103)

興味深いのは4番。剪定ばさみの指穴は大きい。すべての指が余裕をもっておさまる。しかし、人さし指は指穴に入れずバランスをとるように外に出ている。


はさみ

「箸をきちんと持って使えない」に始まり、不器用になっている事例を集めている。

「ハサミが使えない」のページに示されているのが左図。図中の○印で、これが正しい使い方と模範が示されている。

だけど、人さし指は指穴におさまっている。


上記5点以外に調べた本は

  1. 面矢慎介 2012 『まるごと日本の道具』 学研
  2. 岡本誠之 1979 『ものと人間の文化史33 鋏』 法政大学出版局
  3. 苅田澄子 西巻茅子 2015 『はさみのチョキさん』 福音館書店「こどものとも」誌

この3点には「指穴に入れる指」で参考になる図絵がなかった。


ところで、下の はさみでは明確に「人差し指を指穴の外に出す」と使用法として説明がある。図でも示し「人差し指をそえ」とある。このような指つかいをすることで「初体験のお子様でも力が入れやすいので安定して切ることができます」とある。このはさみは、岐阜県関市で製造。関市は、刃物のまちとして知られている。

長谷川刃物こども用はさみ


佐野裕二「子供たちに必要なのはファミコンよりも鋭い刃物」
『鋏読本』1987年 所収 p40-42 PDF

  • 以下、抜き書き
    • 幼児・子供には、親指の入る部分と、4指が入る部分とのグリップでできたはさみを与えるべき(p42)
    • 幼児に刃物を持たすのははやすぎるだろうが、物を切る道具についての認識を物心つく段階で与えようという考え方のイギリス方式は、大変興味深い。(p42)
    • 幼児や小学生用としてのはさみも、幾つかの企業が考案し市場に出回っているようだ。それらのはさみのすべてを見たわけではないので、意見を述べることはできないが、幼児用・小学生用のはさみはかくあるべき、という合意のもとに造られたのではないように見える。また、実際に使用する幼稚園、小学校の側にも、まとまった具体的な考え方があるとも聞いていない。(p42)

対談 青木国夫×佐野裕二「品質の追求こそが、将来の布石」1987年
『鋏読本』1987年 所収 p164-166 PDF

  • 以下、抜き書き
    • 小学校低学年に使わせるはさみなど、とてもチャチなものを使っていますが、あれは、どうにかしないといけませんね。切れるはさみを渡さないで、手を切るといけないという配慮が逆に働いて、安ものを使わせるというのはまちがいですよ。それなりにムリなく切れるはさみをやらないといけないんです。小さい子どもの手の大きさにそれなりに合う必要はあるでしょうが、刃まで切れないチャチなものにしてはいけません (青木談)p165

かぶとむし

折り紙からカブトムシを切り抜いている学生(保育士養成校)の手をみてほしい。彼の人さし指は指穴に入っていない。指穴に入れていると、細かい動作ができないからだ。その彼は、はさみを扱うときの指について特に気づいていなかった。自然と身につけた技がこれだ。

飴細工

飴細工 2015.10.25撮影 兵庫県立明石公園でのイベント

飴細工はどうだったかな? と思っていたら、偶然 出会った。「にぎりばさみ」だったのだ!はさみをにぎる右手。指の一つ一つがそれぞれの働きを受け持っているようにみえる。

美容室はさみの詩

石巻市で見つけた美容室「はさみの詩」

店名「はさみの詩」とあるように、美容師は誇りをもって「はさみ」をつかう。


この論考を著すにあたり、保育士養成校の学生、保育所の現場、出会ったおとなたちに「はさみ」をつかってもらった。これをデータ化するのがむずかしいのですが、印象的には、人さし指を指穴に入れるかどうかは半々というところ。つまり、多くのおとなは、はさみをつかうときに、指穴にどのように指を入れるかについて気にしていない。そして、保育士もそうだった。(※隣近所で簡単に調べられます。あなたは、そして お隣さんは はさみをどう扱っているのでしょう)

保育士が子どもに「はさみ」をつかわせるとき、その安全面には気をつかうが、指穴には関心がない、といってよい。なぜなら、相当な年長者・保育業務経験者である園長・所長・主任のなかで、指穴に関心をもっていない場面に多く出会ったから。そういう条件下で、施設が用意するはさみ、子どもに購入させるはさみを決定している。

芸術系大学を出身したアーティストたちは、自身の経験から指穴に人さし指を入れていないのに、これを子どもの指導に必要なことと認識していない場面に、これも多く出会ってしまった。

「はさみ」という道具は、それを作る職人にとって、刃はもちろんのこと、ねじ、持ち具合、指穴、重さ、バランス、形状、どこにも蓄積されたものがあり、適当につかえばよいというものではないはずだ。事実、先にあげたような「上手な使い方」を示している例がある。

ここで注意深く断りをしておきたい。「上手な使い方」であって「正しい使い方」ではない。教条主義になると「正しい……」とする傾向があるが、伝統を受け継いでいる道具であっても「正しい」を使っていないことに留意していただきたい。

したがって、子ども(幼児)が、はさみをじょうずに楽しくつかえるようになるには、どういう指導をすればよいのか検討していただき実践をお願いしたいと切に思います。(山田利行)

※この論考は、引き続き保育園などで実践を行い、報告したいと思っています。まだ十分な実践例ではありませんが、幼児の場合、指穴に入れる指の修正は比較的受け入れてくれます(仕上がっているおとなは、クセを修正するのは大変のようです) そして、人さし指を指穴から出すことで「はさみがねる」現象を軽減できるのではと思います。2016.5.9